久しぶりのissie's読書感想文です。吉本ばななさんの短編集「とかげ」。ざっとしたあらすじは、人の体を治す「とかげ」という女性と、人の心を治すカウンセラーである私が互いの秘密を告白しあい、ともに生きていく物語。この短編集に出てくる主人公は皆、重い背景を抱えています。幼少期に受けたトラウマだったり、不倫だったり、宗教だったりとどろどろの設定…。それでも終始どこかに救いがあり、希望の光があって清涼感に満ちています。この「とかげ」でも主人公はかなり残酷な境遇ですが、きっちりとでもふんわりと書かれていて、じんわりと響いてくるような感じがしました。普通に生活していると、私たちはひどいことをしたり、ひどいことをされたりします。でもそういった人間の暗くて、汚くていやな一面を、オブラートで包みながらも、決して目を背けたりしない、運命を受け入れる…吉本ばななさんを読むのは初めてですが、そんな気持ちになりました。「秘密があるの」誰にも言えなかった秘密。「私、殺したの」。抱えた秘密を、いつか癒してくれる相手にみんな、出会うことができるのでしょうか。この2人のように、知らず知らず、「秘密」によってひかれあう人達もいるのでしょうか。出会えるまでは、さまよい続けているのかもしれません。あとがきでは「癒しと時間がテーマ」と書かれていましたが、まさにその通りで、傷が少しずつ癒えていく物語で、その再生のプロセスを一緒に体験できるところが読者側の癒しにもなっているように思います。人との関わりの中で傷を負い、人の援助によって癒されていく。人間の持つつながりの力について考えさせられる1冊でした。次は短編集ではなくて長編を読んでみようかと…。
2016年7月16日土曜日
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